呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「ねえ、エオノラ。私とリックとの婚約式には必ず出席して――くれるわよね?」
「……え、ええ」
「良かった! エオノラには一番前の席で祝ってもらうわね。だって私の従姉だもの!」
感激するアリアは目を細め、喜びからか両手を広げてくるくると回る。その姿はどこまでも無邪気だった。
足を止めて再びエオノラに向き直るとアリアは満面の笑みを浮かべた。
「リックったらね、私をなかなか離してくれないの。ほら見て。これはリックがこの間私のために贈ってくれたのよ」
アリアの視線の先を見ると、彼女の胸の辺りにはカメオのブローチがついている。それはエオノラが婚約した時にもらったカメオと全く同じ、ハトの番のデザインだった。
「……っ!」
エオノラは言葉を失った。
これはリックからの当てつけなのだろうか。
おまえはアリアよりも気の利かない男心が分からない女で、このカメオはアリアにこそ相応しいと遠回しに伝えているのだろうか。
凝視していると、表情を緩ませるアリアが愛おしげにカメオを撫でる。
「実はリックが毎日会いに来るから、なかなかエオノラに会いに行けなかったの。まあ、行ったところで使用人に追い返されるんだけど。でも今日は会えて本当に良かったわ。それで婚約式の日取りなんだけど――」
エオノラの耳からはアリアの声が遠のいていく。
空には夜を思わせるような厚い雲が迫っていて、丘の向こうでは稲光が幾筋も走っている。雨は今にも降り出しそうだ。
「……悪いけど雨が降り出しそうだから急ぐわね」
「それなら私の馬車に乗らない? あ、待ってエオノラ!」
エオノラはアリアの制止を振り切り、無我夢中で走った。