呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第24話



 胸が苦しいのは走っているからだろうか。それともリックとアリアとの婚約話を聞いたからだろうか。アリアの純粋な姿を目にする度にエオノラの心の中には黒い感情がわき起こった。同時に自分の心が狭く、卑しい人間だと思い知らされる。
(胸が痛い……もう誕生日パーティーから随分経つのに。やっぱり、まだ痛い)
 無意識的に胸の辺りのブラウスを掴む。
「あっ!」

 一心不乱に走っていたエオノラは何かに躓いて派手に転んでしまった。
 全身を打ちつけて痛みが走る。特に膝の辺りの痛みが一番酷かった。確認すると擦りむいて血が流れている。
 のろのろと起き上がると丁度、ぽつりぽつりと水滴が辺りを濡らし始めた。それはすぐにしのつく雨に変わり、鮮明だった視界を閉ざしていく。

 エオノラはその様子をただ呆然と見つめていた。
 空に稲光が走った後、雷鳴が轟き始める。
(このまま雷に当たって死んでしまえたら……)
 エオノラはおもむろに空を仰いだ。
 もうどうなってしまってもいい。このまま消えてしまいたい。
 周りに何もないことを確認し、手を組んでからゆっくりと目を閉じる。

 すると、遠くの方から水たまりの上を駆ける音と、こちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。
「……誰?」
 ゆっくりと目を開けると、そこにはバスタオルを咥えたクゥが尻尾を揺らしながら立っていた。

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