呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「こう思えば良い。婚約は破棄されたが婚約式や結婚式をする前に分かって良かったと」
突然の言葉にエオノラは目を丸くする。
「そんな風には……」
――到底思えない。
しかし、不思議にもエオノラの中でその言葉は妙にストンと落ちていく。
もし、婚約式後や結婚式後にリックとアリアの浮気を知ってしまったら……。
(婚約式後や結婚式後だと、そう簡単にリックと別れることはできない。それに私だけじゃなくて家同士の軋轢を生むことにもなってしまうわ)
結婚後の離縁はまだしも、婚約式後なら教会に反故とみなされ、記録を残されてしまう。迷信とはいえ、万が一没落なんてしてしまったら一族に顔向けができない。
それを考えると、婚約式前にこのことが発覚して、婚約がなくなったのはまだマシだったと思えてくる。
クリスの意見はもっともだった。彼は柔和に微笑むと、エオノラの頭の上に手を置く。
「……私には仲が良かった幼馴染みがいた。しかし、向こうは呪われた私の姿を見て『気持ち悪い化け物』と罵り、拒絶した。それまでとても仲が良かったのに、呪われた途端変わってしまったんだ」
「……っ」
クリスの境遇を知ったエオノラは何と言って良いか分からず、言葉が出てこなかった。
呪いという運命に翻弄されて、クリスはたくさんのものを失った。あったであろう将来の夢も、死神屋敷ではない場所で暮らす自由も。そして人間関係ですら、呪いはクリスから奪っていったのだ。
両親に会おうとしないのは、幼馴染みとの一件があったからなのかもしれない。身近な存在だった人に化け物と罵られて拒絶される。想像しただけで耐え難い。