呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「お嬢様、ゼレク様がお戻りになり、お呼びになっています」
「え? お兄様が?」
エオノラは怪訝な顔でジョンに聞き返した。
宰相補佐として働いているゼレクは多忙を極め、週末以外はほとんど屋敷に帰ってこない。今日は平日でまだ時間もお昼前だ。どうして急に屋敷へ帰ってきたのだろうか。
「何があったの?」
「詳細はゼレク様に。一先ず私と来てください」
「分かったわ」
ジョンに案内されてゼレクの書斎に入ると彼は椅子に座っていた。
平生は穏やかなゼレクの表情が今日は暗くどんよりとした顔つきになっている。
「お兄様、顔色が良くないけど何かあったの?」
エオノラが質問するとゼレクは憂いのある表情を浮かべた。
「……結論から先に言うとね、君の社交界デビューを早めようと思うんだ」
エオノラは突然の話に周章狼狽した。
この間のシュリアの助言もあって、先日社交界デビューを遅らせるようお願いの手紙を出して、了承の返事をもらったばかりだった。
どうしてそんな考えに至ったのだろう。社交界に流れているエオノラの悪い噂を考慮すれば、まだ動くには早い。
それこそ噂を鵜呑みにする貴族たちの針のむしろになるだけだろう。
ゼレクは手で落ち着くように促すとことの次第を話してくれた。