呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「フォーサイス伯爵家、ゼレク・フォーサイス様とその妹、エオノラ・フォーサイス様」
入り口に控えていた王室長官にゼレクが招待状を渡すと、彼が名前を読み上げて誰が来場したのか会場内にいる皆に伝わるよう大きな声を出す。
名前を耳にして数名かがこちらへ奇異の眼差しを向けてくる。すぐに扇を開くと、ひそひそと話を始めた。
「誰が来たのか聞きまして?」
「ええ聞きましたわ。フォーサイス伯爵のご令息とご令嬢でしょう?」
「キッフェン伯爵のご令息と婚約解消したと聞きましたわ。その理由が令嬢の性格に問題があったからだとか……」
「男を誑かしているらしいから自分のパートナーに言い寄られないか注意した方が宜しいですわよ」
相手は遠巻きにこちらを見て小声で話しているはずなのに、口さがない言葉はエオノラの耳までしっかりと届く。どの人間もフォーサイス家とは敵対する貴族たちだった。
しかしここで傷ついて俯く素振りは見せられない。
フォーサイス伯爵家は他の伯爵たちと比べて侯爵にも匹敵するほどの地位を有している。さらには国王からの信頼も厚いため、嫉妬している貴族もいる。
エオノラは彼らにとって日頃の憂さ晴らしをするための恰好の的なのだ。
煌びやかに見える社交界は蓋を開ければ足の引っ張り合いで悪辣な場所だ。これ以上付け入れられる隙を見せてしまえば、もっと評判を落としてしまうだろう。