呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


(……毅然とした態度で振る舞うのよ。私は噂通りの人間じゃないもの)
 俯かないように何度も自分に言い聞かせる。
 ゼレクにも周りの声が届いたのか、エスコートしてくれている手に力がこもる。見上げると、表情は柔らかいが瞳には強い光が宿っていた。
 周りの言葉は気にするなと言っているようだったのでエオノラは力強く頷いた。
(今夜はお兄様と一曲目のダンスを踊ればいいだけ。だけど、噂を鵜呑みにしている貴族や敵対する貴族たちが私の粗探しをしているはず。振る舞いには充分注意しないと)
 会場内を進んでいると、シュリアが声を掛けてくれた。

「エオノラ、社交界デビューおめでとう」
「ありがとうシュリア」
 こちらにやって来たシュリアは人懐っこい笑みを浮かべた。ゼレクの婚約者であるシュリアだが、今夜は弟と一緒に参加しているようだ。
「今日はお兄様を借りてしまってごめんなさい。本当は一緒に来たかったでしょう?」
「気にしないで。ゼレク様とは結婚したら嫌でも一緒に参加しないといけないんだもの。今のうちにいろんな男の子と参加しないとね~。まあ、弟は女の子よりも宮廷の贅沢な料理に夢中なんだけど」
 茶目っ気たっぷりに片目を瞑るシュリア。彼女の気遣いにはいつも感謝している。
 じんわりと胸に広がる感動に浸っていると、ゼレクがシャンパンの入ったグラスを渡してくれた。どうやらシュリアと話している間に飲み物を取りに行ってくれていたようだ。

 エオノラは受け取ったシャンパンを一口飲んだ。お酒は誕生日パーティーの時に初めて飲んだが、それほど弱くはないことが分かっている。
 その証拠にゼレクはお酒をどんなに飲んでもいつだって素面だ。彼はシャンパンを飲み干すと新しいグラスに交換している。きっと自分も彼と同じようにどんなにお酒を飲んでも酔わないだろう。とはいえ、ここで飲み過ぎて万が一ダンスに支障がでてしまっては大変なのでおかわりはしないでおく。

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