呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「ご機嫌よう、ラッカム嬢。申し訳ないのですがそこを通して頂けませんか?」
エオノラは物怖じせずにいつもの調子で振る舞った。もちろん相手側はこちらに道を譲る気など更々ないだろうが、誠実な対応を示さなければ火に油を注ぐことになるだろう。
何よりも嫌という程、周りからの視線を感じる。注目されているのは明らかだった。
ラッカム嬢は勢いよく扇を広げて口元を隠すと、鈴を転がすような声で言った。
「あら。何故わたくしが泥棒猫であるあなたに道を譲らなくてはならないの? それに頼みごとではなく、謝罪を最初にするのが筋ではなくて?」
「私はラッカム嬢に謝罪することなど一つもありません」
すると、蔑むようにラッカム嬢がエオノラを睨んだ。
「よくもまあぬけぬけと! わたくしの婚約者、デューク・セルデンを真っ昼間に誑かしておいてそんなことが言えますわね?」
エオノラは一瞬思考が停止して固まった。
(デューク・セルデン……って、誰?)
デュークがどこの誰なのか分からないし、顔すら浮かばない。誑かした覚えもない。
完全なる濡れ衣だった。
「ラッカム嬢、私はあなたの婚約者のことなんて知りません。会ったこともありません。きっと人違いです」
すると取り巻きがエオノラをなじった。
「あなたは婚約者がいてしかも婚約式を終えた男性に言い寄るなんて恥ずかしいことだと思わないの? それにセルデン様が仰っていたわ。あなたに言い寄られて困っていると。彼の証言が何よりも証拠よ!!」
取り巻きの令嬢は胸を張って得意気に主張する。
(それは証言じゃなくて、ただの言い訳でしょう!?)
エオノラは頭痛を覚えてこめかみに手を当て、口を開いた。