呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
(もしかして正門が開いていたのは侯爵が出かけていたから? いつもは屋敷に引き籠もっているはずなのに!?)
ラヴァループス侯爵は、噂では杖なしでは歩けない老人だと言われている。醜い顔を恥じ、他人を呪ってしまうことから滅多に人前に現れない。そのため誰もその顔を知らず、王族との謁見ですら仮面を付けて対応するのだという。
だが、いくら人を呪わないように配慮しているとはいえ、無断で屋敷に侵入した人間に与える優しさはないかもしれない。
エオノラは狼が現れた時よりも背筋に冷たいものを感じた。
(屋敷を出るにはどうすれば良いの? 侯爵に会うわけにもいかないからどこかには隠れないと。でも狼が侯爵に私の居場所を知らせるかもしれない。嗚呼、だけど石のことも気になるわ)
このまま庭園の奥へと進むと、目的の石がある。助けを求めていることから救ってあげたいという気持ちはある。
しかし遂行すれば屋敷に侵入したことが侯爵にバレて二度と家には帰れないだろう。
あたふたしていると御者のかけ声と共に馬の鳴き声が響いた。
馬車が玄関前で停止したらしい。
「どうすればっ……!!」
目の前には狼、そして唯一の出口には侯爵の馬車。
絶体絶命のピンチに頭が真っ白になっていると、ふいに狼がスカートの裾を引っ張った。