呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
人々の興奮と熱気の渦が会場を包み込む。
エオノラがそれを肌で感じ取っていると、オーケストラの指揮者が指揮棒を手に構えるのが目に入った。手の動きに合わせてゆったりとした旋律が流れ始める。
一曲目のダンスが始まるらしい。緩やかな音色が会場内に響いた途端、歓談していたうら若い令嬢たちは令息たちと手を取り、優雅な足取りで会場の中心へと歩いて行く。
結局、ゼレクは間に合わなかった。エオノラは小さく息を吐くと、周りの邪魔にならないように壁際へと移動した。
(ハリー様が一肌脱ぐと仰っていたのは国王夫妻に挨拶をして時間を稼ぐことだったのね。大変ありがたいことだけど、結局お兄様は間に合わなかった……)
一曲目に演奏されているのはゆったりとした踊りやすい曲。女性たちのスカートがそのテンポに合わせて美しく揺れている。
その様子を寂しい気持ちで眺めていると、突然視界を遮るように、目の前には青みがかった白銀の頭が映った。驚いて手前に焦点を合わせてみると、間近に仮面を付けた青年が立っている。他の人たちがつけている目元を隠すだけの仮面とは違い、額から鼻先までを仮面でしっかりと隠している。
(……クリス様?)
目の前の人物の髪色や背恰好といい、その雰囲気はクリスを彷彿とさせるものがある。しかし、クリスは呪われたラヴァループス侯爵だ。たとえ仮面舞踏会であるとはいえ、こんな公の場に訪れるとは考えにくい。それに仮面から垣間見える彼の瞳は緑色だった。
見とれていると彼がエオノラの前に手を差し出してきた。