呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
旋律に合わせて二人はダンスを踊り始める。
クリスとダンスを練習した甲斐もあってエオノラの足取りは軽やかだ。くるりとターンをすると彼はしっかりと身体を受け止めてくれる。
(この人、とってもダンスが上手いわ。というよりも、何だかクリス様のダンスに似ている気がする。……私がクリス様を意識し過ぎているから?)
クリスを意識し過ぎている。
自分で言っておきながら、エオノラの心臓の鼓動が激しさを増した。
(嗚呼、今は大事なデビュタントのダンスなんだから。集中しなきゃ……!)
意識を引き戻すと、相手がこちらを見つめていることに漸く気がついた。
「ど、どうしたんですか?」
我に返って尋ねると、彼がエオノラの耳元にさりげなく顔を寄せる。
「大事なダンスなのに集中していない。一体、誰のことを想像しているんだ?」
囁かれた重低音が頭の芯まで響いて全身に熱が走る。その声はあまりにも魅惑的で一瞬頭がくらりとした。バランスを崩しそうになったので必死に足に力を込め、踊りながら体勢を立て直す。
向こうはその様子を見て、楽しそうに笑っていた。
(完全に私で遊んでいるわ。というか、こういうことに絶対慣れてるわ!)
エオノラは無事に社交界デビューが終わることを祈りつつ、ダンスが終わった暁には彼がどこの誰なのか問いただそうと内心息巻いた。