呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
きっと仕事があるというのは嘘だ。これはただの憶測だが、リックはアリアを舞踏会場で待っていて、先程のハリーの発言を聞いてしまった。そしてこれまで自らが流していたエオノラの悪口が嘘だとバレてその場に居づらくなってしまったのだろう。
そんな中、社交界デビューするアリアのダンス役を最後まで務めたことは称賛に値するが、非難の的になるのを恐れて尻尾を巻いて逃げたので、どのみち甲斐性なしといえる。
エオノラは苦々しい表情を浮かべた。
(そういえば、前までは嫌でもリックの姿が頭に浮かんでいたのに、全然そんなことないわ……)
最近頭に浮かぶのはクリスの姿ばかりで、すっかりリックの存在など忘れていた。同時に、リックの呪縛から逃れられたことをエオノラは実感する。
もう苦しめられなくて済むことに感動していると、アリアがふわふわとした羽がついた扇を優雅に開いた。
「ねえそれより――さっきの殿方はだあれ? 私にも紹介して欲しいなあ」
「えっ?」
エオノラは首を傾げた。さっきの殿方というのは一緒に踊った相手のことだろうか。それなら自分の後ろにいるはずだ。
アリアの性格上、初対面の相手でも臆することなく自ら挨拶をするはずなのに。
きょとんとした表情で後ろを振り返ると、先程までいた彼の姿がどこにもなかった。