呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第34話
「クゥは……クリス様だったの?」
エオノラはクゥの今までの行動を振り返る。
クゥは狼なのにいやに人間の言葉を理解していた。聡明な狼だとばかり思っていたが、それが人間であるなら納得がいく。
他に何か書かれていないか、エオノラは残りの一節に目を通した。
――彼は私に手紙を残していてくれた。それによるとルビーローズの花が咲けば呪いは解けるらしいの。だけど自我が失われて獣になってしまったら、もう解くことはできない。自我を失ってしまえば私の声は彼に届かないから。そこで漸く気づいたの。ルビーローズが以前から私に言っていた言葉の意味に。そして私に足りなかったものが。あなたに負わされた右足の怪我は生涯治さないわ。これは私自身の罰として墓場まで持って行く。だって私に一番足りな……たものは……ったから。
続きはインクが滲んでしまっていて読めなくなっていた。恐らく祖母の涙の痕だろう。
次の頁にはごめんなさいという言葉と『狼神』という文字が書かれていた。
エオノラは狼神の話の内容を呟く。
「狼神は永遠の眠りにつく前にこう言った。我の屍の上に咲く植物をその血を以て守り花を咲かせよ。番を見つけなければこの土地の厄災は永遠に主である王家を蝕むだろうと」
呟き終えてその言葉の意味が何を示しているのか、そして祖母がどうして謝っているのか気がついた。
クリスが言っていた通り、狼神の言葉は呪いを解くための方法だった。しかし、彼は誤っていた。だからこれまでルビーローズの花は咲かなかった。
「クリス様にこのことを知らせないと。だけど解く方法が分かったところで誰が呪いを解くの? それにクリス様に残された時間はあとどれくらいかしら?」
ルビーローズには蕾が付いているが花は開いていない。もしもクリスに残された時間がないのなら、彼は先代侯爵と同じ轍を踏むことになる。