呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
こうしてはいられない!
エオノラは日記帳を小脇に抱えると屋敷を飛び出した。
死神屋敷に辿り着くと正門前に普段とは違う光景が広がっていた。
なんと豪奢な馬車が止まっている。ハリーが来ているのだろうか。
(ハリー様が来ているなら彼にも呪いを解く方法をお伝えしないと!)
門をくぐって進んでいくと、玄関付近で腰を下ろしている護衛騎士がこちらに気がついて手を挙げた。
「お嬢様、ここに来てはいけません!」
護衛騎士が叫ぶと、同時に庭園の方からガラスが砕けるようなけたたましい音が響いてくる。驚いたエオノラは立ち止まり、小さな悲鳴を上げた。
(一体、何が起こっているの?)
エオノラは話を訊くために音が止んだ隙に護衛騎士のもとに駆け寄った。
「さっきの音は何だったんですか?」
「それが、物分かりの良い狼が突然凶暴化して暴れまわっているんです。いつもはハリー様の言うことを聞くのに、今回は興奮してまったく言うことを聞きません」
「えっ?」
エオノラは顔を青くした。
今のことが本当なら祖母の日記帳と同じことが起きていることになる。状況は逼迫しているようで、護衛騎士が説明を続けた。
「こちらとしてはハリー様をお守りしたいのですが、狼に真剣を使うなとの仰せです。それもあって思うように動くことができず。恥ずかしながらしくじってしまいました」
護衛騎士が下を向くのでエオノラもそれに習うと、右太もものズボンは獣の鋭い爪に引っかかれたように裂けていて、赤い血が流れていた。クゥに攻撃されて負った傷だ。