呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 エオノラは日記帳を地面に置き、ポケットからハンカチを取り出すとしゃがんで止血を始めた。
「そんなことをすればお嬢様のハンカチが汚れてしまいます」
「じっとしていてください。ハンカチが汚れることより止血する方が大事ですから。ところで護衛騎士はあと何人いますか?」
「二人です。真っ先に私がやられたので他の者がどうなっているのか分かりません。殿下をお守りするのが私の務めなのに……不甲斐ないことこの上ありません」
 彼は悔しそうに唇を噛みしめる。
 エオノラは傷口を覆うようにハンカチを巻いて結ぶと無言で立ち上がり、日記帳を拾い上げる。


「お待ちくださいお嬢様! 行ってはなりません!!」
(ごめんなさい。だけど、私は彼のところへ行かないと!!)
 エオノラは護衛騎士の制止を振り切って庭園へと駆け出した。
 屋敷の外廊下を走り抜けていくと、そこには見頃を迎えたバラたちの庭園が現れる。

 そしてそこでは木の棒を持って狼と対峙するハリーがいた。その手前にはガラスの破片と血溜まりの中、護衛騎士が二人倒れている。
「ひっ、うぅ……」
 あまりの凄惨な光景にエオノラは口元を覆うと、恐怖で膝から崩れ落ちた。
 庭園内のバラから漂う芳醇な香りと血生臭い匂いが混ざって気持ち悪い。
 エオノラは口元に手を当てて胃から酸っぱいものが込み上げてくるのを必死に耐えた。
(しっかりしないと。クリス様を助けるんだから)
 祖母が日記帳を自分に託したのは、自分が同じ石の音が聞こえる能力を持っていたから。そして先代侯爵と同じ悲しい運命を次の侯爵に辿って欲しくないからだ。
 涙を手で払うと気力を振り絞って立ち上がる。せめてもの思いで護衛騎士たちの上のガラスの破片を払っているとハリーの声が響いてきた。

< 160 / 200 >

この作品をシェア

pagetop