呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第35話
「伏せろ!」
ハリーはエオノラの頭を押さえつけるようにして叫ぶと、もう片方の手をクリスの前にかざした。
素早く口の中でもごもごと聞いたことのない言葉を唱える。するとかざした手からは真っ赤に光る複雑な模様と古代文字が刻まれた円陣が展開された。
(これって、魔法陣?)
魔法陣はハリーの手よりもどんどん大きくなると、障壁となって襲いかかってきたクリスの身体を弾き飛ばした。
「ハリー様ってまさか……魔術師……」
頭を上げておずおずと口にすれば、ハリーがへらりとした顔をこちらに向ける。
「一般人の前で魔術を使うことは禁止されているが、状況が状況だ。上も許してくれるだろう」
「もしかして医学や薬学の研究というのは、魔術と組み合わせた研究だったんですか?」
「はは、エオノラは鋭いな。そうとも。俺はいち魔術師としてクリスの呪いの進行を抑えるために魔術院でずーっと魔術を使った薬の研究をしていた」
事情を知られ、吹っ切れたハリーは次々と魔法陣を展開していく。
今度は黄色の光に包まれた小さな魔法陣がいくつも展開されると、その中心から蛇の形をした稲妻がクリスに向かって走る。
クリスは襲ってくる稲妻を華麗に避けていたが、最後の一つが彼の身体に直撃した。
加減しているのか思ったほどの攻撃性はなく、身体が痺れて動かなくなっているだけのようだ。