呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


(私にしかできない? どういうことなの?)
 すぐに柘榴石に手を当てて心の中で問いかけるが、それ以上柘榴石の反応はなかった。
 果たして、自分に侯爵の呪いを解く資格はあるのだろうか。そして呪いを解く時間はまだあるのだろうか。疑問と焦燥で頭の中がいっぱいになる。

(……だけど、いつまでもこんなところで突っ立っていても、何も変わらないわ!)
 エオノラは自身の頬を両手でパンッと叩いて気合いを入れた。
 突然のエオノラの行動にハリーは驚く素振りを見せたが、すぐにクリスの方を指さした。

「まだ経過途中だとは思うが、あれが呪いが完全となったクリスの姿だ」
 言われて視線を向けるとそこには想像もしなかった醜い姿のクリスがいた。
 頭部は狼、身体は硬い紫色の鱗に覆われていて背には先程の黒いヒルのような触手が蠢いている。尻尾はトカゲのような尻尾だが、先端がやじりのように尖っている。
 あまりの悍ましい姿にエオノラは声を失った。身体は小刻みに震え腹底が縮み上がる。

「完全体となる前に避難しよう。倒れた護衛騎士を屋敷から運び出し、速やかにクリスの呪いが完全になったと報告しないといけないな……」
 状況は悪化の一途を辿っている。
 しかしここで諦めてしまえばクリスはもう二度と救えない。
(今度は、私がクリス様を助けるんだから)
 エオノラは自分を奮い立たせる意味も込めて声を張り上げた。

「待ってくださいハリー様。私がクリス様の呪いを解きます。解いてみせますから協力してください!」
「何を言っている。長年呪いの研究をしている魔術師の俺でも、進行を遅らせる薬しか開発できなかったんだぞ。君に何ができるっていうんだ?」
 ただの小娘に何ができるというのかというようにハリーの瞳が鋭くなった。

< 166 / 200 >

この作品をシェア

pagetop