呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
厳かなオーラに一瞬怯んだエオノラだったが、意を決して口を開く。
「……ずっと黙っていましたが私は石の声を聞くことができるのです。ルビーローズに触れることができれば、呪いを解く方法が分かります。そして私が持っている祖母の日記帳には呪いを解く方法が書かれています」
祖母の日記帳によると呪いを解くには本人の自我がある時に試すのが一番のようだった。この状況下で試すのは博打に近いが、やらないよりはましだ。
ハリーは未だに胡乱な視線をこちらに投げかけてくるが唸り声が聞こえてきた。
「……ガゥゥッ」
視線を再び向けるとクリスが身体を起こして立っていた。事態は一刻を争う。
背中の触手は未だにうねうねと蠢き、別の生き物が寄生しているようだった。
すると次の瞬間、その触手がもの凄いスピードでこちらへと伸びてきた。瞬く間に距離を取った黒い触手はエオノラの目と鼻の先にまで迫っている。
躱すこともできないエオノラはただそれを見つめることしかできない。
すんでのことでハリーが障壁を発動してくれなければ、今頃怪我を負っていただろう。
自然と息を止めていたようで、やっとの思いで肺から息を吐き出した。
「しっかりしてくれ! その話が本当なら君だけが希望なんだぞ」
「信じてくださるんですか?」
「この状況下で嘘を吐く人間はいない。俺にはもう手の施しようがないし、君を信じるしかないだろう!」
エオノラは身体をびくりと揺らした。
そうだ。ここで呪いを解く方法を知っているのは自分ただ一人だけだ。