呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「クリス様、あなたが欲するのはルビーローズですか? それとも……」
エオノラは護身用にと思い、ポケットに忍ばせていたガラスの破片を取り出し、鋭い部分を自分の首筋にピタリとつける。
「おとぎ話みたいに、お姫様のキスで呪いが解けるならどれだけ素敵だったでしょう。お祖母様の日記帳や、ルビーローズの声を聞いて分かったんです。ラヴァループス侯爵の呪いを解くには彼を愛してくれる人間の血……つまりは命が必要だと。――私、クリス様が好き。だから、今度は私があなたを救いたいの」
ここ最近、クリスを思い出す度に締め付けられる胸の苦しみについてずっと考えていた。
クリスと一緒にいる時間はとても楽しい。最初は素っ気ない態度を取られていたけれど、それは相手を傷つけるのを恐れてわざと仕向けていたことだと知った。
本当のクリスはとても優しくて思いやりのある人間だ。落ち込んだ時、話を聞いて心を救ってくれたのも、舞踏会に参加するからとダンスの練習を一緒にしてくれたのもすべて嬉しかった。そんな思いやりのある彼にいつの間にかエオノラは惹かれていた。
祖母は先代侯爵と仲は良かったが、そこにあったのは友愛で恋愛感情ではなかった。だから祖母には呪いを解くことができなかった。
覚悟を決めたエオノラは手にしたガラスの破片を白い肌に突き立てる。すると、目の前にいたクリスが飛びかかってきてそのまま一緒に倒れ込んでしまった。
「……あっ」
地面に頭から倒れ込んで衝撃が走り、エオノラは目の前が真っ白になった。