呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
それはエスラワン王国と海を挟んだ隣にある島国の話。
そこはかつて精霊信仰や自然崇拝が根強い国で、巫女が国を治めていた。しかし、百年前に大国との戦争に敗れて属国となり、現在は土着の信仰は禁止されてしまっている。資料として知識は残っているが今はもう誰も信仰していないのだという。
もともと大国は魔術師の数が減っていることを危惧し、巫女の力を求めて戦争を起こした。しかし、島を攻め入った直後に巫女は忽然と姿を消してしまった。
巫女は島民を捨てて逃げたとも、側近に助けられて命からがら島を脱出したとも言われている。
「それでね、その島の巫女は島民からは石守姫と呼ばれていたらしいんだ。石守姫は竜の目という真実を見定める目を持ち、精霊が宿る石の声が聞こえた。彼女はその二つの力を用いて祈祷を行っていたそうなんだ」
話の内容にフェリクスはハッとする。
エオノラは石の声が聞こえる力を持っていると言っていた。それに呪われた自分の本当の姿を見ることもできた。
もしかすると、彼女や祖母は石守姫の末裔なのではないだろうか。
「巫女の力を持つ人がどこかにいるなら、その人を探し当てて呪いを解くようにお願いしようと思ったんだ。……だけど結局呪いは解けてしまったから、ただの土産話で終わってしまったみたいだね」
何も知らないルイは笑いながら言った。
それから三兄弟揃って語らいあった後、ルイは妻を待たせているからと先に部屋から出ていった。彼がいなくなるとハリーは身を乗り出してフェリクスに言った。
「な? 面白い話だっただろう?」
「確かにその話は興味深い。だが……」
「百年前の話だから確固たる証拠はないって言いたいんだろう? そういうと思ってエオノラの祖母をこっそり調べてみた。なんとびっくり、彼女は孤児院育ちでエメリー子爵の養子になっていたんだ。これはあながち間違いではないのかもしれないぞ」
「エオノラは自分の力を誰にも話したくないと言っている。魔術院へ行くのが嫌というのもあるが、もし彼女が巫女の末裔であるなら外交的な問題にも発展するかもしれない」
魔術師はどこの国も喉から手が出る程欲しい逸材だ。石守姫の末裔がエスラワン王国にいる。もしもそれが戦勝国である大国の耳に届いたら――戦争の火種になりかねない。