呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「……リック? どうしてここにあなたがいるの?」
「君に謝りたくてここに来たんだ。その、今まで君の評判を落とすようなことを言いふらして悪かったよ」
これまで傲慢な態度をみせていたリックが突然謝罪したのでエオノラは心底驚いた。今更謝ってきたところでもう遅いし許す気もないが、キッフェン伯爵に叱られて改心したのならそれはそれで良いことだとエオノラは思った。次の言葉を聞くまでは。
「どうだ? こうやってわざわざ頭を下げに来てあげたんだし、父に許すように言ってもらえないか? せめて、田舎領じゃなくて王都で一からやり直せないか頼んで欲しいんだ」
「……」
本当にこの男は、自分のことを最優先でしか物事を考えることができないようだ。
エオノラは頬が引き攣りそうになるのを堪えて無理矢理笑みを作った。
「リックったら相変わらずね……」
すると何を勘違いしたのかリックはエオノラが好意的だと判断して明るい表情を見せた。
「そうさ。俺は昔となんにも変わらない。だから元婚約者のよしみで……」
「それはあなた側の都合でしょ。あなたを助けたところで私に何の得があるの?」
「……君が俺を助けたらアリアも幸せになれるぞ」
「確かにアリアが幸せなのは嬉しいことだけど。それとこれとは別だわ」
田舎領に飛ばされるのを免れたところでキッフェン伯爵がアリアとの婚約式を進めるかどうかは別の話だ。伯爵が婚約式を認めるかどうかはリックの仕事ぶりに掛かっている。そこに、エオノラが入り込む余地はない。
「これまで散々私はあなたに苦しめられた。助ける義理なんてない。自分で蒔いた種は自分で刈り取って」
エオノラはきっぱりと拒絶するとくるりと後ろを向いてその場から立ち去った。