呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
リックという婚約者がいるのにフェリクスへ熱い視線を送るのはあまりにも軽薄だ。
エオノラは眉を顰めるのを我慢できなかった。
「……婚約式が保留になったって聞いたわ。それからリックが暫く田舎に飛ばされるということも……今回のことは残念ね」
アリアはフェリクスから視線を外すと、くりくりとした目でこちらを見て首を傾げた。
「リックのことはもうどうでもいいから残念じゃないわよ。宴が終わった後でお別れを言うつもりなの。だから彼が田舎に行こうと隣国へ行こうと、私には関係ない」
「えっ、どうして?」
「だってリックには飽きちゃったから。婚約式をする前にこうなって良かったわ」
エオノラは耳を疑った。
つい先日まであんなに仲睦まじい様子だったのに。リックからはガラス細工のように大切に扱われてアリアはとても幸せそうにしていた。アリアだって、リックに心酔していたはずなのに。
急にどうでもよくなっただなんて言われても到底信じられない。
(どうして急に態度が変わったの? 分からない……アリアは何を考えているの?)
困惑しているとアリアがエオノラの耳元で囁いた。
「ねえ、エオノラ。エオノラはフェリクス様のことが好きなんでしょう?」
「へっ!?」
尋ねられてエオノラの頬が赤く染まる。
「ふふ。私はエオノラと従姉妹なのよ? 見ていたら分かるわ。それにさっきからエオノラったらずーっと彼に視線を送っているんだもの。……ねえ、この間の舞踏会で踊ったのはフェリクス様でしょう? ここでは珍しい青みがかった美しい銀色の髪だもの。忘れるはずないわ」
アリアは手を合わせてうふふっと笑った。