呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
気を良くしたはずのクリスの目はちっとも笑っていなかったのだ。
目を細めるクリスが氷のように冷たい声で尋ねてくる。
「――本当に理由はそれだけか?」
「ええっと?」
どう答えることが得策なのか分からず、言葉を詰まらせる。視線を泳がせているとクリスがさらに追究してきた。
「この間と違って今日は正門を閉じていたのに。エオノラ嬢はどうやらネズミのように侵入に長けているらしい」
いつの間にか丁寧な言葉遣いは消えて、荒々しく棘のあるものに変わっている。
礼儀を欠いているのはエオノラの方なので、すかさず謝罪した。
「申し訳ございません。令嬢にあるまじき行為だと自覚しています」
丁寧に謝罪したところで向こうは機嫌を損ねている。頭にはある不安が過った。
(お兄様に苦情が行けばきっと叱られてしまう。それどころか婚約解消と合わせて余計に悲しませることになるかもしれないわ)
これがもし社交界に知れ渡れば、面白がってあらぬ噂を立てられるに違いない。
真っ青になったエオノラは途方に暮れてしまった。
すると、その様子に見かねたクリスが深い溜め息を吐いて側頭部に手を置いた。
「心配するな。誠意をもって謝ってくれているのだから酷いことはしない。ただし、三度目はない」
「もしかして、見逃してくださるんですか?」
ぱんっと手を合わせるエオノラの口からは、これ幸いと言わんばかりに明るい声が出た。
「……あんた、まあまあ肝が据わっているな」
呆れた表情を浮かべるクリスは目を眇めてみせる。
「今回は見逃してやるが次はない。それじゃあさっさと出て行ってくれるか。ネズミがうろちょろされると困るんだ」
クリスは露骨に嫌そうな顔をすると、手でシッシッ、と追い払うような仕草をする。
「で、でも私はまだ……」
まだ鈴のような音の正体を確認していない。
今尚、庭園に響く悲しげな助けを求める音。
一体何が悲しくて音を鳴らしているのか理由を知りたい。
(なんて説明すれば良いのかしら。だけどこの力を打ち明けるわけにもいかないし……)
俯いて考え込んでいるとクリスに腕を掴まれる。