呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
勢いよくクリスの胸の中に飛び込んでしまい、おまけに靴の踵で彼の足を盛大に踏んづけてしまった。
「申し訳ございません!!」
すぐに足を退けて謝罪したが、この程度で怒りが静まるだろうか。
無断侵入をしてただでさえ彼は不機嫌なのに。火に油を注ぐ形になってしまった。
(悪いのは私だから、罵詈雑言を浴びせられても仕方がないわ)
俯くエオノラはきつく目を瞑って叱られる覚悟をする。ところが、クリスが責めてくる気配は一向になかった。
不思議に思ってうっすらと目を開けてみると、彼の顔は赤くなるどころか青ざめていた。クリスの視線を受けてエオノラもその先を見つめてみると、木に掴まろうと伸ばした手の甲に切り傷ができている。恐らく枝葉が当たって皮膚が切れてしまったのだろう。うっすらと血が滲んでいる。
「……すまない。無理に引っ張って怪我をさせてしまった」
エオノラの手を取って傷口を確認するクリスは心の底から心配しているようだった。それからすぐにポケットから丸いケースを取り出して蓋を開ける。中には軟膏が入っていて薬草の独特な香りがした。
クリスは右手の人差し指で軟膏をすくい取ると傷口に優しく塗ってくれた。