呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「えっと、あの。侯爵様……」
「傷口に効く軟膏だ。染みるかもしれないが我慢しろ」
 薬が傷口に染みて痛いから声を掛けたわけではなかった。先程までの態度との違いに戸惑って声を掛けたのだ。

(もともと勝手に屋敷に入った私が悪いのに……どうして優しくしてくれるの?)
 自分がクリスと同じ立場なら、傷の手当てなんてしないでそのまま追い出すだろう。彼にはそれができたはずだ。
 ちぐはぐな態度が引っかかってエオノラは頭の中で首を捻る。
 クリスの考えを分析しようと試みたが、それ以上はできそうになかった。

(ううっ。いつまで手を触られるの。そろそろ離してくれないかしら!?)
 エオノラはリックと婚約をしていただけで、異性と触れあうのはこれが初めてだった。


 骨張った長い指が円を描くようにするすると甲の上で踊る。その度にくすぐったくて心臓の鼓動が速くなった。ただ軟膏を塗られているだけなのに刺激的で、顔に熱が集中していくのが嫌でも分かる。
 ちらりとクリスを盗み見ると彼の表情は真剣そのものだった。また鼓動が速くなる。
 恐らくここまで胸が高鳴ってしまったのはクリスが眉目秀麗だからだろう。しかしエオノラはあることに気がついた。

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