呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第2章 幻の花・ルビーローズ
第9話
エオノラは温かな春の日差しが感じられる窓側の席に座っていた。向かい側に座っているのは親友のシュリア・トルバートだ。
子爵令嬢の彼女は気立てが良く明るい性格で、ゼレクの婚約者でもある。
今日はシュリアの屋敷に遊びに来ている。彼女からお誘いの手紙が何通も届いていたのでエオノラは久しぶりに顔を出した。
「無理に引っ張り出してしまってごめんね。だけど屋敷に籠もっているよりかはきっと良いと思ったのよ」
「ううん、ありがとう。あなたと久々に話ができて嬉しいわ」
侍女が部屋に入ってきてテーブルに茶菓を置いて下がると、背もたれに背を付けていたシュリアが姿勢を正して話を切り出した。
「実は昨日、夜会へ弟と一緒に行ったんだけど。あなたがパトリック様と婚約解消をしたことで会場が盛り上がっていたの。あ、わざわざそれを言うためにここに呼んだわけじゃないのよ? もちろん、アリアを非難する人だっていたわ。ただ……」
シュリアは言い淀むと眉尻を下げる。一度口を噤むが、やがて決心したように口を開いた。
「昨日の夜会、パトリック様も出席していたの。それで彼やその取り巻きたちがあなたの悪口を言いふらしていたわ」
シュリアによると、リックはエオノラの性格がどれだけ邪悪で手の施しようがなかったのか散々言いふらしていたらしい。その場には社交界で影響力を持つ夫人やフォーサイス家を目の敵にしている夫人もいたらしく、彼女たちはリックの話を真剣に聞いていた。
リックは話の最後に「結婚するなら家格など関係なく、美人以上に性格が良く心を癒やしてくれる令嬢に限る」と締めくくった。
つまりアリアの顔を立てて自分たちの愛を正当化させるため、徹底的にエオノラを悪者に仕立て上げたのだ。