呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


(これじゃあ社交界デビューしたところで結婚相手は見つからないかもしれないわね)

 両親は不在で、宰相補佐のゼレクは仕事で忙しい。
 ゼレクはエオノラの根も葉もない噂を払拭したくとも社交界に顔を出せずにいる。
 もちろん、フォーサイス家側についてくれている貴族も存在し、牽制してくれてはいる。しかし社交界デビューしていないエオノラ個人の話となると、互いに面識がないのでこちら側についてくれている貴族が牽制するのは難しい。
 結果、リック側の勢いが増してしまっている。
 シュリアの話にエオノラは酷くショックを受けた。

 自分がリックに相応しくないことは、誕生日パーティーの時に思い知らされた。しかし、徹底的に叩かれるほど嫌われているとは思いもしなかった。
「つまり何が言いたいかというと、社交界デビューを送らせるべきだと思うのよ。この状況下で正式デビューすれば、あなたの心が持たないわ」
 シュリアの言い分はもっともだ。
 今社交界へ顔を出せばきっと食い物にされてしまうだけ。悪い噂で持ちきりの令嬢と誰がダンスを踊ってくれようか。そんなもの好きはいない。

 さらに言うと、社交界デビューを控えた令嬢たちは同年代の令嬢たちからひっきりなしにお茶会へ招待されるのが恒例となっている。先日の誕生日パーティーもその一環だったが、あれ以降誰からもお茶会に呼ばれなくなった。自分たちに火の粉が降りかからないように距離を取られていることがひしひしと伝わってくる。

「シュリアの言うとおりね。お兄様に手紙を書いて社交界デビューは遅らせてもらうことにするわ。どのみち、お兄様は忙しいからダンスの相手は難しいだろうし」
 社交界デビューでダンスを踊る相手は婚約者か親族の男性に限定される。婚約解消をしたエオノラは必然とダンスの相手がゼレクになるのだが、彼は仕事に追われていてなかなか予定を空けられないでいる。

「シーズンが終わるのはまだ先の話だから。社交界デビューを少し遅らせても問題ないわ。……それよりもお兄様がシュリアの相手をしなくてごめんね」
 ゼレクと滅多に会えないであろうシュリアはきっと寂しい思いをしているはずだ。最後に二人で会ったのはいつだろうか。エオノラは怖くて聞けなかった。
 しょんぼりしていると、シュリアが席を立ってこちらに回り込んで抱き締めてくれる。

「ゼレク様からは毎日情熱的な手紙が届いてるわ。だから私のことは気にせず、今は自分を大切にして。なんでも遠慮なく言ってちょうだい。相談に乗るし、力になるから」
「シュリア……」
 彼女優しさが身に染みる。失ったものはあるけれど、それでも自分を味方して、支えてくれる人たちがいる。その想いにいつか答えられるようになりたい。
 早くリックのことは忘れて、もっと強い人間になろう。立ち直った姿を見せよう。
 エオノラはシュリアの温もりを感じながらそう心の中で誓ったのだった。

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