呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
クリスは呪いで醜い顔をしたラヴァループス侯爵だが、何故かエオノラにだけは本当の姿が見える。噂の内容の半分は嘘で、彼の顔を見ても死にはしない。
しかし、他の人たちにはクリスが醜く見えるようなので、素直にラヴァループス侯爵のところへ行くと伝えれば、外に出してもらえなくなる。それは火を見るより明らかだった。
本来、貴族令嬢が一人で気ままに外へ出歩くことは許されない。街や公園へ出かけるとなると必ず使用人を伴わなければいけないのだが、先日の婚約破棄もあってエオノラが一人で出かけても使用人たちは何も言ってはこなかった。
「一人で出かけてると言っても、街のショッピングストリートじゃないから誰かに会うことはないし。誰も死神屋敷の道は通らないから、危険な目にも遭わない」
死神屋敷の鉄門前まで辿り着くと、邪魔にならないように鉄柵下の塀の上にスコーンとクッキーが入った紙袋を置いた。同じ場所に置き続けているので定位置となっている。
初日にここへ来た時は、紙袋の下に差出人がエオノラであることを伝えるための手紙も置いていたので、毎日きちんと受け取ってくれているようだ。
エオノラは満足げに目を細めると、すぐに踵を返した。すると柵の向こうの茂みからガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてくる。
振り返れば、ひょっこりとクリスが姿を現した。