呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
クリスはお茶を用意すると言ってさっさと行ってしまった。
青年とは初対面なのだからせめてお互いの紹介くらいはして欲しかったと心の中で愚痴をこぼす。
(侯爵様に歓迎されてないから仕方がないことだけど)
青年と肩を並べて歩いていると、エオノラの気まずい空気を察したのか彼が優しい口調で尋ねてきた。
「失礼だけどあなたの名前は……? 社交界では見ない顔だね」
問われたエオノラは歩みを止めると、スカートの裾を少し摘まんで挨拶をする。
「自己紹介が遅れてしまいました。私はエオノラ・フォーサイスと申します」
「嗚呼、フォーサイス家のご令嬢か! これは失礼。今年が社交界デビューだったね」
青年もエオノラに倣って丁寧に挨拶を返してくれた。彼は自身をハリーと名乗った。
フルネームで答えないことに違和感を覚えたが、何か事情があるのだろう。
エオノラは追及はせずに「よろしくお願いします」と返した。