呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第11話
「クリスは普段誰かと会う時は必ず仮面をつけて対応するようにしている。優しいから誰も傷つけたくないんだ。屋敷に一人で引き籠もってるのだってそう。迂闊に外へ出ないのは、困ったことが起こらないようにするためさ。両親すら寄せ付けないようにしている」
話を聞いていると、どうしてクリスが何度も屋敷に来るなと冷たい態度を取るのか少しだけ分かった気がする。彼は自分のせいで誰かが傷つくのが嫌なのだ。たとえ孤独になろうとも、恐れられようとも、誰かを守るためならそれを厭わないと思っている。
手の傷を手当してくれたのも、きっとその表れだろう。
(侯爵様の行動は利他の表れ。……だけど私が取った行動は……)
屋敷に二度も侵入した自分の行動はなんと向こう見ずで浅はかだったのだろう。
事情を知らなかったとはいえ、これまで取っていた行動を恥じると眉尻を下げて俯いた。
「君が落ち込む必要はない。私としてはクリスが誰かと関わりを持ってもらえたらと考えている。今日君と接しているクリスを見てひどく嬉しかったよ。だから顔を上げなさい」
ゆっくりと顔を上げれば、優しく微笑むハリーとその背後には咲き誇る見事なバラが一面に広がっていた。たった数日来なかっただけなのに、蕾だった花が開いている。
エオノラは思わず感嘆の声を上げた。
「良い反応だ。もっと良い場所があるぞ」
ハリーに案内されるがまま歩み進めると、小高い場所に立派な四阿が建っていた。
そこにはお茶を楽しめるように丸テーブルと椅子が置かれていて、クリスがお茶のセッティングを行っていた。
三人分のティーセット。皿の上に並べられているのは昨日届けたラム酒入りのケーキと今日届けたばかりのスコーンとクッキーだ。
受け取ってくれたことが嬉しくて自然とエオノラは顔を綻ばせる。が、エオノラに気づいたクリスが冷たい視線を送ってきたので慌ててそれを引っ込めた。
(屋敷には入れてくれたけど、やっぱり歓迎はされていないようね)
相変わらずな冷たい態度を受けてエオノラは気落ちする。