呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
「こらこら興奮して暴れるな。令嬢に取る態度じゃないぞ」
激しく暴れて噛みつこうとする狼をものともせず、ハリーは冷静に対処している。それなりに腕力があるようで、どんなに狼が暴れても押さえつけたままだった。
次第に狼の方が疲れを見せ始め、大人しくなっていく。
「頭を冷やすといい。彼女は何も知らないんだし、君が威嚇したら素直に謝ってきたじゃないか。だから襲ったり噛んだりしてはいけない」
狼は尚も唸り声を上げてハリーを睨んだが、やがて小さく頷いた。
「取引成立だな」
そう言ってハリーは腕の力を緩めた。
解放された狼は頭を左右に振ってフンッと鼻を鳴らす。まだエオノラを許したわけではないようで、半眼で睨んでくる。
エオノラが狼に不安を抱いているとハリーが手を差し出して立たせてくれた。
「ふう。急にいなくなったから驚いたよ」
「ごめんなさい。庭園の奥が気になってしまって。好奇心からここまで来てしまいましたが、狼さんの気分を害してしまったみたいです」
「ははは。心配しなくても大丈夫だ。あいつがルビーローズに関して神経質すぎ……痛いっ!」
「ハリー様!!」
いつの間にか狼がハリーのふくらはぎに噛みついている。
「大丈夫。ただ戯れているだけだよ。普段は噛まないし、暫く俺が来なくて寂しかったんだろう。まったく、可愛いやつ……だから痛いって!」
「やせ我慢しなくて大丈夫ですから。狼さん、お願いなのでハリー様のふくらはぎを噛むのはやめて」
エオノラが懇願すると、狼は大人しく噛む力を緩める――が、最後に盛大に一噛みしてハリーに悲鳴を上げさせた。