呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
狼は満足した様子で尻尾を揺らすとルビーローズの前に座る。青みがかった銀色の毛並みは艶やかで、凜としている姿はまるで神殿を守る聖獣の如く神々しい。
「狼さんはルビーローズを守っているのね。とっても偉いわ」
エオノラが褒めると狼が当然だというように胸を張る。
番犬代わりに調教された狼だ。褒めてやるとその態度は犬とあまり大差ないように思えた。
エオノラは狼の頭にそっと手を伸ばした。最初はこちらを睨んで鼻に皺を寄せ、警戒する狼だったが、エオノラに頭を撫でられた途端、不服な態度はそのままに大人しくなる。
するとその光景を目の当たりにしたハリーが眉を上げた。
「ふうん。その子は滅多に身体を触らせないんだけど。エオノラ嬢はいいみたいだねえ」
ハリーがにやにやと口角を上げたところで狼がぎろりと睨む。しかし、エオノラは背中を撫でていたため、狼の表情には気づかなかった。
「ハリー様、この子の名前は何と言いますか?」
エオノラが尋ねるとたちまちハリーが視線を泳がせる。
「えーっと、その狼の名前は何だったかな。確か…………クゥ」
自信がないのか声が尻すぼみになっていく。
エオノラがそうなのか確認を込めてクゥに尋ねると、クゥは少し考え込んだ後こっくりと頷いた。
「よろしくね。クゥ」
前からそうだったがクゥは人の言葉をよく理解しているようで、表情や尻尾を使って意思疎通を図ってくれる。
「そろそろお茶を飲みに戻ろう。ぬるくなったお茶ほど美味しくないものはない」
クゥに噛まれたふくらはぎの痛みが治まったハリーはエオノラとクゥを連れて歩き始めた。お茶と聞いたエオノラはふと、クリスのことを思い出す。