呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
目を見開いて聞き返したが、ハリーの意図がなんとなく理解できる。
エオノラはクリスの姿を見ても失神せずに平然としていられる。そればかりか進んでクリスと交流を図ろうとする人間だ。容易く手放すには惜しいのだろう。その上、ルビーローズの存在を知ってしまった。不審な行動をしないかどうか監視する上で、クリスとクゥの世話を頼めば一石二鳥だ。
正直なところエオノラにとってもこれは良い提案だった。
社交界デビューするまでの間、暫く暇になることは覚悟していた。社交界では悪い噂が流れ、シュリア以外の友人たちからは距離を置かれているため現状手持ち無沙汰になっていた。
それは否応なしにリックとアリアの記憶が蘇ってしまうことを意味し、これでは悪循環になってしまう。
(だけど、侯爵様やクゥのお世話ができるなら気も紛れるし思い出す回数が減るわ)
エオノラは今までにない興奮を覚えて胸が高鳴った。しかし、そこで一つ疑問が残る。
ここで自分が快諾しても、クリスはこの件をよしとするだろうか。
クリスはエオノラが来るのを迷惑だと言っていた。不治の病を煩っているにも拘らず、呪いで他人を遠ざけ両親すら屋敷に寄せ付けないようにしている。
エオノラとしては自分がきっかけで両親との交流の足がかりになって欲しいと思う。だが、クリスは決して首を縦には振らないだろう。
「その依頼を私はお引き受けしますが、侯爵様に了承を得てからにしてください」
「了承を得るも何も、クリスは快諾するだろうから心配いらない」
するとハリーの足下で寛いでいたクゥが起き上がって不満そうに吠えた。