呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


「ふぅ。これで決まりだな」
 話がまとまって満足したハリーはクッキーを口に放り込み、カップのお茶を飲み干した。エオノラもお茶を飲もうとカップを口元へと運んでいく。
「そういえば、最初の挨拶で礼儀を欠いて悪かった。俺の名前はハリストン・エスラワンだ」
「…………え?」

 ハリストン・エスラワン。ハリストン・エスラワン。ハリストン・エスラワン。
 呪文のように名前を繰り返していくうちに相手が誰なのか理解したエオノラは持っていたカップを落としそうになった。
「エスラ……え? ええ? だ、第二王子殿下のハリストン様ですか!?」


 エスラワン王家には三人の王子がいる。
 第一王子のルイストル、第二王子のハリストン、そして第三王子のフェリクスだ。第一王子であるルイストルは隣国の姫君と結婚し、現在は新婚旅行も兼ねて諸外国を外遊している。第二王子のハリストンは大学院を卒業後、王宮の研究所に勤めている。
 そして第三王子のフェリクスは心を病んで離宮で療養中だ。

 王家には必ず心が病みやすい子供が一人生まれてくるという。フェリクスの前は現国王の叔父がそうだった。彼は亡くなる日の最後まで離宮で暮らし、社交界にも顔を出すことなくひっそりとその生涯を閉じている。

 社交界を渡り歩くための教養として家庭教師から教え込まれたエスラワン王家の知識を頭の中で思い出す。
 エオノラは王家の一人であるハリストンに深々と頭を下げて挨拶をした。

「不躾な振る舞いをしてしまい、大変申し訳ございません。非礼はお詫び致します」
「本名で答えたら、対等に話なんてしてくれないだろう? だから敢えて先程は姓を省略していた。私のことは引き続きハリーと呼んでくれ」
 エオノラは一つ重要なことを思い出した。
 ラヴァループス侯爵と交流がある者がいるとすればそれは王族しかいない、と。
 どうしてハリーが最初に現れた時に気がつかなかったのだろう。

 エオノラが混乱する傍らでハリーは楽しそうに白い歯を見せる。
「というわけで、改めてよろしく頼むぞエオノラ嬢」
 ハリーは今までにないくらい王子らしい爽やかな表情を浮かべて言った。

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