呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 月夜を閉じ込めたかのように美しく輝く青みがかった白銀色の髪に、琥珀色の瞳の青年が椅子に座っている。
 ハリーは目を伏せると溜め息を吐いた。
「薬の開発と研究は続けているが、効きづらくなっているな。――申し訳ない、クリス」
「ハリーが謝ることじゃない。これが呪いなのだから仕方ない……」
 狼から人間の姿となった青年――クリスは平淡な声で答えると椅子から立ち上がって庭園の中へと歩いて行く。

 つるバラのアーチを抜けていくと、鳥かごのような大きな鉄柵が見えてきた。
 近づいて手を伸ばせば、ルビーローズの枝に軽く触れた。触れた枝が揺れると、ルビーに似た蕾が陽光によってキラキラと輝く。蕾のまま摘んでしまえば宝石のルビーとして加工できそうなくらいだ。そう思っても決して摘みはしない。
 蕾を摘んでしまえば、たちまち普通のバラの姿となってしまうことをクリスは知っている。そして呪いを解く重要な鍵を無駄にすることになる。

 ラヴァループス侯爵の呪いは、他人の目には醜い姿で映ることに加えて、姿が人間から狼になってしまうというものだった。人間から狼になることは簡単なのに、狼から人間になることは難しい。

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