呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
カメオを人差し指と親指で摘まんでそっと机の上に置く。
楕円形に成形された象牙に愛の象徴であるハトが二羽と花が立体的に彫られている。仲睦まじい二羽のハトを見ていると、二人の愛が永遠に続くように思えた。
(まさか一つだけ残っていたなんて……)
ブローチはまだ彼がアリアを知らず、エオノラだけを見てくれていた時に贈ってくれたものだった。
「婚約の証しに、君にこれを贈るよ」
彼はそう言って胸元にブローチをつけてくれた。
リックの第一印象は人当たりの良い青年だった。焦げ茶色の髪は癖があるが艶やかで背は高く体格もそれなりに良かった。顔立ちはこれといった派手さはないが顔をくしゃりと崩して笑うところはとても素敵だ。
当時の彼は忙しいと言いつつも、最後はいつもエオノラを優先して動いてくれていた。
あの頃の幸せとその夢はもう終わってしまったのだという絶望の二つがない交ぜとなり、胸の辺りに複雑な感情の波が押し寄せてくる。
とうとう耐えられなくなってカメオから視線を逸らした。
「……はあっ」
自分でも気づかないうちに息を止めていたエオノラは、苦しみと一緒に息を吐き出す。
(これは、早くイヴに処分してもらいましょう)
嫌なものは処分して忘れてしまうに限る。気を取り直してエオノラは引き出しの空いたスペースに手紙の束を入れ、その次に宝石箱をしまおうとした。
しかし、長年しまいっぱなしにしていた祖母からの贈り物をまた引き出しに入れるのはどうも忍びない。
「埃もこびりついているし、クゥのご飯を食べる姿を眺めながら綺麗にするのも良いかもしれないわ」
エオノラは宝石箱をスカーフにくるんでから小脇に抱えると厨房へ向かった。
料理長から野菜たっぷりのパイとハムとチーズを挟んだバケットサンドを包んでもらい、バスケットに入れてもらう。ついでにスカーフにくるんだ宝石箱も入れてもらった。