呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
死神屋敷はこれまで同様、正門は閉ざされている。開けるとなるとクリスの手を借りなくてはいけないので、クゥに教えてもらった抜け道を使って庭園へと足を運ぶ。
バラの香しい匂いが風に乗って漂ってくるとサーッと如露で水をやる音が聞こえてくる。イチイの間を通って歩き進めると、クリスがバラに水遣りをしていた。
相変わらず顔色が良くない気もするが、以前よりも少し血色が良くなっているようにも見える。エオノラは息を吸い込んで気を引き締めると彼に近づいた。
「侯爵様、ごきげんよう。もう体調は大丈夫ですか?」
明るく声を掛けると、クリスが僅かに身じろいだ。
動かしていた手を止めて顔を上げると、琥珀の双眸がこちらを見つめてくる。その表情は今日も今日とて冷ややかだ。
「……それなりに」
相変わらず素っ気ない態度に尻込みしてしまう。が、負けじとエオノラは話を続けた。
「そうですか。それなりなら良かったです。ところでクゥはどちらに?」
「あいつは屋敷内のどこかにいるかもしれないし、いないかもしれない」
「……そう、ですか。屋敷内なら私は入れないので会えませんね。……残念です」
仲良くなろうと精一杯試みるが向こうが心を開こうとしていないのでうまくいかない。話題を振っても話が続かないのでエオノラは、ほとほと閉口した。