【電子書籍・コミックス配信中】呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
エオノラはハリーと初めて会った日の帰りに口頭で伝えられていた条件に加えてもう一つの条件が加わった書面をもらっていた。所謂、契約書というものだ。
仕事で忙しくて来られない彼に代わって護衛の騎士が持ってきてくれた。
ハリーとの決まりごとは次の三つ。
一つ、ルビーローズには手を出さないこと。
二つ、庭園以外、屋敷の中には入らないこと。
三つ、庭園内に建っているガーデンハウスの設備や食器、食材は好きに使って良いこと。
契約書の内容を思い出しながら、早速庭園の隅に建っているガーデンハウスの中に入る。
中は清潔で、炊事場や暖炉、それからベッドなどの家具まで備え付けられていて人一人が生活できるような空間になっていた。
(侯爵様はここで寝泊まりすることがあるのかしら?)
呪いの一種である不治の病を患っているのでもしかすると、屋敷に戻るよりもここで一度休み、体力を回復させているのかもしれない。
ぐるりと中を見回していると、ふと調理場に目が留まる。調理場の棚にはパンが乾かないようにするためのブレッドビンや数種類のジャムがあり、床に置かれている野菜箱には採れたてのニンジンやキャベツなどが入っていた。小さな冷蔵用の箱を開けると、新鮮な肉の塊もある。さらにその端に置いてあった巾着袋の口を開けば、香辛料が入っている。
ハリーのあまりの手際の良さにエオノラは舌を巻いた。
「流石、王子殿下だわ! 仕事が速いのね」
エオノラは調理台の上に持ってきたバスケットを置くと、壁掛け棚に置かれている皿やティーセットを運んだ。お湯を沸かしている間にバスケットから野菜たっぷりのパイとハムとチーズを挟んだバケットサンドを皿に盛り付けると、銀盆に載せて四阿へと運ぶ。一旦ガーデンハウスに戻り、ティーポットに茶葉とお湯を入れてまた戻る。
カトラリーを並べ終え、すべてのセッティングが済んだところで、一仕事終えたクリスが落ち着かない様子でやって来た。