呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
(どうしたのかしら? 嫌いな野菜でも入ってたなら、次回から入れないように聞いておいた方が良いかもしれないわね)
エオノラが口を開きかけると、クリスが言葉を詰まらせながらも尋ねてきた。
「その、なんだ。……エオノラ嬢は、食べないのか? パイは、嫌いか?」
「へっ? 私ですか?」
持ってきた料理は一人分しかなかった。自分の分も含めるとなると量が多くなるので料理人に怪しまれてしまうからだ。
「持ってきたのは侯爵様の分だけですよ。私は朝食を済ませていま……」
クリスの表情が曇っていくのを見てエオノラは最後の言葉を言い切る前に口を噤んだ。
ふと、呪われてラヴァループス侯爵となった日から、彼は誰とも食事を共にしていないのではないかという考えが頭を過る。
独りぼっちで食事を摂るクリスを想像した途端、エオノラは胸を突かれた。
(きっと誰とも食事を共にすることができず、寂しかったんだわ……)
クリスの境遇を気の毒に思っていると、彼がナイフとフォークを使って器用にパイの半分を小皿に置き、次にバケットサンドに手を伸ばす。
バケットサンドは厚めに切られたチーズとハム、薄切りの玉ねぎとレタスがたっぷりと挟まっている。それも半分に切り分けると皿に載せて、エオノラの前に運んできた。
「食事を独り占めする趣味はない。……一緒に食べよう」
「えっ」
エオノラは目を見開いてから小皿とクリスを交互に見た。
まさか自分のために切り分けてくれていただなんて想像していなかった。
クリスはフォークに刺したパイを口に運ぶ。
「……美味い、な」
ほうっと息を吐くその表情はあまりにも幸せそうで。
ハリーが言っていたように料理はできた方が良いらしい。今後は未熟ながらもクリスのために料理を振る舞うようにしよう。
「では、私もいただきます」
エオノラは予備で持ってきていたナイフとフォークを手に取ると、クリスが分けてくれたパイを食べ始めた。