呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
食後のお茶を出した後、四阿で各自好きなことをした。クリスは難しそうな本を読み、エオノラは持ってきていた宝石箱を濡らした布巾でせっせと磨く。
すると、こちらの様子が気になったらしいクリスが本から顔を上げて尋ねてきた。
「その箱はなんだ?」
エオノラは作業する手を動かしながら答えた。
「宝石箱です。亡くなった祖母からの贈り物で……鍵が見つからなくて開きはしないんですけど」
布巾を使って磨いていくと、鈍く光っていた金細工の埃が取れてピカピカになる。最後に箱全体を拭いていると、クリスが貸してくれというように手を前に出してきた。
エオノラが素直に宝石箱を手渡すと、彼は丹念に宝石箱を観察し鍵穴の蓋をスライドさせて片目を瞑る。
「鍵がなくても開けられそうですか?」
「……これは鍵がなくて開けられないんじゃない。そもそも普通の鍵では駄目だな」
クリスの返答にエオノラは疑問符を浮かべた。
普通の鍵では駄目というのは真鍮製の鍵ではないということなのだろうか。
クリスは説明を続けてくれた。
「これは数十年前に上流貴族の間で流行った宝石箱だ。鍵穴はただのフェイクで、最初に箱の中に入れた品が鍵になるというものだ。これを発明したのが魔術師で、彼は貧乏な農村出身者だった。そのせいなのか銭を数えることこそがこの世の至上と主張していたらしい。自分の銭を誰にも取られないために、魔術と錠を融合させた発明したと聞いたことがある」
その話はエオノラも聞き覚えがあった。