【電子書籍・コミックス配信中】呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第17話
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クリスは応接室の革張りのソファに横になっていた。
天井を見上げると花の形になるよう金細工で縁取りがなされた石膏装飾とその中心からはクリスタルのシャンデリアが伸びている。
視界に入った天井の花の数を数えながら、ここ数日を振り返る。
強引なハリーのせいで始まったエオノラの屋敷通いだが、思っていたほど悪いものではなかった。伯爵令嬢なのに料理ができて、温かいものを出してくれる。まだ冷え込む日もある早春、温かい料理は非常にありがたく心と身体に染みた。
エオノラ曰く、ここに通っていることは秘密にしていて、ゆっくりと散歩していると使用人に言って出てきているらしい。
だから食事を作ってお茶を用意する頃には時間になり、少しだけ話をして帰っていく。
そして彼女はルビーローズへ近づこうとしたり、気にしたりといった素振りはあの日以来一切なかった。
ハリーとの約束が効いているようだ。もしも本当にルビーローズを盗む算段でいるのなら、食事に眠り薬をいくらでも盛ることができたはずだ。
毎日観察して出た答えはエオノラがただの世話好きということ。
軽食を届けに来てくれていたのも、食事を作りに通ってくれているのも、放っておけない質だからなのだろう。
最初は冷たい態度で接して突き放しても、微笑んで言葉を返してくる姿が何を考えているのか分からず、薄気味悪いとすら思っていた。だが、よくよく考えてみれば彼女はクリス本当の姿が見えている。すなわち、彼女にとってクリスは他の人たちと同じのように恐れるべき対象ではないということだ。