呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
ハリーが仕事に追われて動けない、夏が終わるまではエオノラが屋敷に来てくれる。
それはありがたいが気がかりなことが一つだけある。
「……いくらハリーの薬で呪いの進行を抑えることができているとはいえ、そう長くは持たない。日に日に薬の効き目が弱くなっている。呪いが完全になる日も近い」
エオノラに狼のクゥであることを教えていないし、たった数ヶ月だけの関係なので言うつもりもない。
人間は異質なものに対して敏感で、恐怖や拒絶を心に抱きやすい。
現状の関係を保つことが最善だとクリスは判断している。自分がクゥであることを告げてその先どうなるのか、彼女の心境の変化が何よりも怖い。
(それに今更自分がクゥだなんて小恥ずかしくて打ち明けられない)
それもあってクリスはエオノラとの関わり方について今後どうするか考えあぐねている。
呪いは確実に進行している。いずれ薬が効かなくなって、呪いが完全となったらその先に待っているのは――。
「……果たして夏終わりまで身体は持つだろうか」
先月ハリーが出した予測では、呪いが完全になるのはあと半年だった。だが、今月に入って薬がさらに効きにくくなってきていることから、もっと早まる可能性が出てきている。
ハリーは第二王子という身分であることもあり、万が一に備えてこちらを訪問する際はしっかりと影で護衛騎士を付けている。
しかし、屋敷へ通っているのを秘密にしているエオノラには護衛がいない。一層不安になる原因はそれだ。
もしもエオノラと過ごしている間に呪いが完全な形になってしまったら……。
クリスは頭を抱えた。
無残な幕引きにならないよう、エオノラが通っている間はなんとかしてしなければ。
追い詰められたようにクリスは目を閉じ、眉間を揉むと深い溜め息を吐いた。