呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~


 そうして死神屋敷に通うようになってから数週間ほどが過ぎようとしたある日。
 エオノラが庭園に足を運ぶとその日はクゥが四阿でお座りをして待ってくれていた。
「おはよう、クゥ」
 挨拶するとクゥが尻尾を揺らして返事をしてくれる。
 今日はクリスの体調が優れないのか尋ねると、短く吠えてくれた。
 それからクゥはおもむろに立ち上がって歩き始めた。付いてこい、という風に一度立ち止まってこちらを一瞥する。
 エオノラがクゥに従って付いていくと、到着したのはいつも料理をしているガーデンハウスだった。
 クゥは後ろ足だけで立ち上がり、前足に全体重を掛けて器用にガーデンハウスの扉を開く。一緒に中に入っていくといつも通りの景色が広がっていた。

 中に入って料理台の前まで進み、クゥの様子を窺っていると、彼が奥から何かを咥えて戻ってきた。それをエオノラの足下に落とすと鼻先で足先近くまで運んで来てくれる。
「これを私に?」
 クゥが持ってきたのは書類の束だった。エオノラがそれを拾い上げて内容を確認すると、興奮して声を上げる。
「まあ! これって、魔術師が作った宝石箱に関する資料だわ! 侯爵様が見つけてくださったのね」
 あれ以降もエオノラは宝石箱を開けるため、祖母の鍵になりそうな品を探していた。祖母のことだからきっと大切な品を鍵にしているとエオノラは予想している。

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