呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第19話
ハリーの闖入《ちんにゅう》に驚いたエオノラはその場に立ち竦む。
「驚かせてしまったみたいだな」
ハリーはゆっくりとした足取りで室内に入ってきた。
我に返ったエオノラはすぐにスカートの裾を少し摘まんで丁寧に挨拶をする。
「第二王子殿下にフォーサイス家のエオノラがご挨拶致します」
「おいおい、非公式なのだからかしこまらないでハリーと呼んでくれ。ところで、何か食材や用品で足りないものはないか?」
「ハリー様が手配をしてくださったお陰で侯爵様とクゥのお世話は恙なくできています」
「はは。それは良かった」
ハリーの突然の訪問によって、一旦クゥのご飯は後回しにしてお茶の準備をすることにした。
ハリーからは「エオノラの手料理を食べてみたかったのに」と不満を言われたが宮廷料理人が振る舞う料理を日頃食べている王子殿下に料理経験の浅い人間の料理を食べさせるわけにはいかない。
エオノラが丁重に断ると、ハリーは渋々と行った様子で引き下がってくれた。
「今日はエオノラのために差し入れのお菓子を持ってきている。先に四阿へ行っているからお茶の準備ができたら来てくれ。……なんだクゥ、機嫌が悪そうだな」
クゥを見ると何故か目を吊り上げて怒っている。
ハリーは去り際にクゥの顔を揉みくちゃにしてから出ていった。
どうやら折角のご飯がお預けになって拗ねているらしい。
「クゥ、ご飯はきちんと用意してから帰るから心配しないでね」
エオノラがフォローするが、それでもクゥは不機嫌なままだ。機嫌を直してもらうために厚切りベーコンを一枚追加すると提案してもむくれている。
どうしたものかとおろおろとしていると、クゥは溜め息を吐いてハリーの後を追っていった。ベーコンを一枚追加だけでは足りなかったのだろうか。彼の様子が気がかりではあったが、エオノラはお茶の準備に専念した。