呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~
第20話
「ハリー様はクリス様と昔からのご友人なんですよね? 昔のクリス様はどんな方だったんですか?」
エオノラは呪われる前のクリスのことが知りたいと思っていた。生い立ちや、呪われる前までの彼を知れば、クリスとの距離が縮まるヒントを得られるかもしれない。
「昔のクリスは明るくて素直なやつだった。今じゃ呪いのせいで見る影もなく捻くれて……痛いっ!!」
突然悲鳴を上げたかと思うと、いつの間にかクゥがテーブルの下に潜り込んでハリーの脛に食らいついている。
飼い主を悪く言われたと思って怒ったのだろう。相変わらず賢い狼だ。
エオノラが止める間もなく、クゥは悲鳴を上げたハリーから離れた。それからフンッと鼻を鳴らすと気を取り直した様子で地面に腰を下ろす。
ハリーは足を組んでクゥに噛まれた脛を擦る。やがて、暗い表情になるとエオノラにこう語った。
「呪われてからのクリスは人との関わりを極端に嫌うように、避けるようになった。知っての通りこの屋敷には使用人も従者も、護衛もいない。孤独しかない環境だ。だからこそ、ここに通っている君の話を従者から聞いた時は驚いたし、特別だと思った」
『特別』という言葉にエオノラは目を見張る。
自分は決してクリスの特別ではない。偶然ルビーローズの悲痛な音を聞いてしまっただけなのと、偶然クリスの本当の姿が見えているだけ。後者はどうして見えているのか未だに分からないし、様々な条件が重なっただけのことだ。