スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
「よし……」
出来上がった軟膏を渡すタイミングを見計らっていると、廊下が少しだけ騒がしくなった。
訓練中に怪我をした兵士達が何も知らずにやって来て、いると思っていなかったレイの姿に顔を青ざめながら怪我のことなど忘れて回れ右して立ち去っていく。
これはまた変な噂が流れそうだなあ……。
それでもレイの集中力は切れることなく、処置を続けていた。
「こんなものか……」
額にかいた汗を拭き取りながら、レイがようやく私の方に目配せしたのを見逃さずに、完成した軟膏を手渡した。
レイが受け取った軟膏を子猫の傷に塗って包帯を巻き終わった頃には、子猫の苦痛な表情はどこかへと消えていた。
「暫くの間は様子を見ながらと言った所だが、綺麗に傷は治る」
「良かったあ……」
「――先程の気が緩んだ兵士達に怪我をする暇があったら、全ての集中力を絞り出す訓練をするように言っておけ。出来ないようなら俺が直々に扱いてやる」
この件に無関係なお医者様に向かって、今にも喉に噛みつきそうな威嚇と共に、お医者様にぶっきらぼうに突然押しかけたことを謝りながら使ったものを丁寧に直していく。
またこれは勘違いされそうだと、私は子猫を抱きかかえてレイの側へと近寄った。
「兵士達に大きな怪我をして欲しくないのよね」
「……」
「さっきの兵士達の怪我も、お医者様と一緒に治療してあげたら?」
片付け終わった物品棚を前に、少し動きを止めたレイだったけど回れ右して医務室から出て行った。