スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
私の過去
*
迫ってくる荒々しい呼吸に地を這う唸り声。
逃げ場を失った私を支配したのは紛れもなく恐怖だった。
あの日の記憶は今でも鮮明に覚えていて、私を蝕んでは消えてはくれない。
払い除けたい一心で私は必死にその記憶から離れるように重たい体に鞭を入れて逃げて逃げて……ずっと遠ざけてきた。
そんな時身体が重たいのに妙に穏やかな気持ちに包まれる私は、ようやく掴んだ光を手放さないように我武者羅にしがみついた。
それが意識を取り戻したと分かったのは、またあの日の夢を見ていたんだと理解したから。
「ん……」
柔らかい肌触りのいい寝台の感覚に、一先ず安心する。
ゆっくりと瞼を開けて飛び込んできたのは、夜の色に染まった部屋と月明かりに照らされたレイの姿。
遠くを見つめる彼の姿は今にもどこかへ消えていきそうで、怖くなって手を伸ばす。