スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
そうよ……私だって素敵な恋をして、溺れてみたい。
好きな人と結ばれて、幸せな人生を歩みたい。
でもこのスキルが邪魔をする……一体どうしたら私にも素敵な恋が訪れるというんだろう。
難しい顔をする私にセドリックは食いつくように、声を掛けてきた。
「そうだ。僕の友人が、明日舞踏会を開くんだ。ルフィアも一緒にどうだい?」
「ぶ、舞踏会?」
「そう、舞踏会。それを伝えに今日、君に会いに行こうとしていたんだ。ルフィアの話を聞いたら、尚のこと舞踏会に参加して、気分転換するべきだよ」
ね?と促されるように言われるけれど、生憎そんな高貴な身分の生まれでもなんでもないから、マナーは本当に最低限しか知らない。
その上、舞踏会なのに踊りの基礎すら知らない。
そんな私が参加した所で、楽しめるわけがない。
「気持ちは有難いんだけど、私そういう場には慣れてないの。別の方法で気分転換をするから、大丈――」
「君の分のドレスもこちらで手配するから安心してね。それに、僕の友人がもしかしたら君のスキルについての手がかりをくれるかもしれないし。そういう訳だから、明日正午の鐘が鳴る時に迎えに行くから待っててね」
やんわりとお断りしようとしていた私の言葉に被せて、セドリックは拒否権は与えないよ、とでも言うように、用件をつらつらと述べると、颯爽と立ち上がり爽やかな笑みを浮かべて部屋から出て行った。
一人残された私はどうしていいのか分からず、ソファーに座り込んだままでいると、使用人が私を玄関まで案内してくれた。
屋敷を出る直前、使用人からセドリックに言われた内容がまとめられた手紙を手渡され、豪奢な扉は閉ざされた。
受け取った代金と手紙を交互に見合わせながら、私は元きた道を辿って店へと戻る。
魔性の男はこんな強引なやり口もするんだあ……なんて、意味もないことを考えながら、明日のことなんて考える余裕もなくとぼとぼと歩くしかなかった。
まだその時は、大事な友人の手の平の上で転がされていることには、気づく余地もなかった。