スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜



 婚約者が私の他にいるなんて話、レイの口からは一度も聞いたことがなかった。

 それにだって私達が出会った当初に、婚約者を見定める見合いに時間を費やしたくなくて、私を偽の婚約者として迎え入れたはずじゃ……。

 ごちゃごちゃし始めた頭になっている私を他所に、ラジールくんは言葉を続ける。
 

「どこかの貴族令嬢だったか、他国の姫様だったかはっきり覚えてはいないんですけど、ルフィア様を迎える以前から、離宮の外から一歩も出さない婚約者様がいるって噂なんですよ」

「……」

「俺の同僚が一度、一瞬だけ見たことあるらしいんですけど、そいつ曰く絶世の美女だった……って鼻の下伸ばしてたんですよ?そんなんだから、相手が出来ないってことを自覚しろって思いません?」


 思い出し笑いしながら語るラジールくんには、何の罪の意識も感じない。

 寧ろ、そんな噂で私が動じるのがおかしい話だ。

 胸が押しつぶされていく感覚から抗うために、私は自らラジールくんにその事を問い詰めた。


「その人は婚約候補者、なんだよね」

「はい。きっとルフィア様を迎え入れたら、言い方は悪いですけど追い出す形を取るんでしょうね。変に騒動にならないように工夫はするんでしょうけど」

「追い出す……か」


 ……違う、私は迎え入れられることはない。

 だって、私が『偽物』の婚約者だから。




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