スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
でも私は彼の優しさを知っているから、この手を伸ばす。
――だけどこの手は届くことはなかった。
「来るな」
漂わせる人を切り裂く刃のようにレイの言葉には鋭さだけでなく、突き放すような冷たさがあった。
人を拒絶し、自分の殻に閉じこもるその姿には、いつもの面影はどこにも見当たらない。
「通行の邪魔だ。下がれ」
「で、でも……」
「聞こえなかったか。下がれと命じている」
怒りを顕にして唸るレイの言葉に本能的に伸ばしかけた手を引っ込めて、彼から離れて出迎えの列に戻る。
そこからはただ黙って城へと戻っていく兵士達の姿を見つめる事しか出来なかった。
その姿が完全に見えなくなった所で張り詰めた空気がようやく消え、街の人達は何とも言えない表情を浮かべながら私を見ては自分の帰る場所へと戻っていく。
「ルフィア様……俺達も帰りましょう」
切なそうな声でラジールくんが私の名前を呼んで、自分達も城に戻るように促してきた。
考えることを辞めた私は促されるまま自分の居るべき場所ではない、城へと足を進めた。
帰る頃にはもう空は夜に染まり、浮かんだ月は怪しく輝き冷たい夜風は嘲笑うように髪をかき乱す。
このそびえ立つ城には、どこを探しても私の居場所はどこにもないんだ……。
「ルフィア様!」
ぼーっと城を眺めている私に帰りを心待ちにしていたと、喜びを見せるユツィーが駆け寄って来てくれて笑顔を浮かべて見せた。
正直、笑顔がちゃんと作れている自信はない。