スキル〖魅了無効〗を獲得しましたが、甘い言葉に溺れたい〜溺愛?何それ、美味しいの?〜
それに気づいた舞踏会に参加する貴族達全員が、こちらに視線を向ける。
しん……と静まり返ったこの空間で、男はハッキリとこう告げた。
「よく聞け。今日この場で、ルフィア・エンリックを正式に我が婚約者として迎え入れる」
ざわめく会場内で、私だけが事を理解していないせいで、ぼーっとしていた。
「異論はないな?ルフィア」
その問に、頭の中でセドリックの言葉がやけに強く思い出される。
『誰ふり構わず何かを聞かれたら『はい』と必ず答えて欲しい』
そうだ……『はい』って答えなきゃ。
「……はい」
私のたった二文字のその答えに、会場内はさらにざわめきを増した。
哀れみの声を上げる者や、その場で崩れ落ちる者。
この場にいる者全員が、その目に恐怖を宿していた。
何がどうなっているのか、全然分からない。
いい子だ、と耳元で囁かれ、気づいたら足元には複雑な文字で構成される魔法陣が真っ黒な炎を灯していた。
「舞踏会はこれで終了だ――解散」
そう低い声で言うと、男が黒い炎に手を伸ばし、触れた炎を強く握りしめると、私は真っ黒な炎に包まれて……その場から消えた。